米国の発明者の宣誓書

2024.05.05
弁理士・米国弁護士 龍華 明裕

A.居住地の記載
宣誓書(または出願データシート(ADS))には、発明者の連絡先と共に居住地を記載しなければなりません。

特許規則(37 CFR) 1.63 発明者の宣誓書または宣言書
(b) 以下の情報を(略)出願データシートに記載されていなければ宣誓書(略)に記載しなければならない:

(2) 各発明者の、習慣的に郵便物を受け取る連絡先、および発明者が郵便物を受け取る場所と異なる場所に居住している場合にはその居住地

連絡先は、会社の住所でも構いません。

審査基準(MPEP) 602.08(a)
発明者の自宅住所または勤務先住所のいずれも連絡先とすることができる

しかし居住地は、発明者が居住(lives)している場所なので会社住所は不可です。ただし都市名を記載すれば足り、〇丁目〇番地などの記載は不要です。

審査基準(MPEP) 602.08(a)
各発明者の居住地、すなわち都市名および州または外国名を非仮出願の宣誓書または宣言書に含めること。(略)発明者が連絡先と異なる場所に居住している場合、その居住地(都市名および州または外国名)を宣誓(略)またはADSに含めること。

B.発明の名称の記載
宣誓書では、発明者名+整理番号で出願を特定すれば発明の名称を省略できます。すると特許明細書の原稿を査読中に発明者が発明の英語名称を変更しても、宣誓書を修正する必要が生じないので、宣誓書の作り直しや、ひいては宣誓書を出願後に提出すること(庁費用が生じます)を避けられます。

審査基準(MPEP) 602.08(c)
出願日に明細書と同時に提出される宣誓書(略)において、以下の情報の組み合わせが提供されていれば、出願を特定するための最低限のものとして受理される。(略)

(A)発明者名及び添付された明細書、または宣誓書・宣言書の署名時及び提出時に添付された出願の参照
(B) 発明者名及び提出する明細書に記載された代理人整理番号、または
(C) 発明者名及び提出する明細書に記載された発明の名称

しかし「譲渡証」には発明の名称が必要なので、発明の名称を書かなければ「宣誓 兼 譲渡証」を作れず、発明者が宣誓書と譲渡証の2つに署名する必要が生じます。すると署名ミスも増えて内部コストが増えます。このため発明の英語名称を発明者が変更することが稀であれば、「宣誓 兼 譲渡証」に発明の名称を記載して署名を一か所にすることをお勧めします。

C.発明者の署名が得られない場合
宣誓書の代わりに代替陳述書を提出することができます。

特許法(35 USC)115条 (d) 代替陳述書
(1) 一般
(略)宣誓(略)を行う代わりに、特許出願人は、段落(2)に記載の状況および米国特許庁長官が規則で指定する追加の状況において、代替陳述書を提出することができる。
(2) 許可される状況
段落 (1) に基づく代替陳述書は、以下の個人に関して許可される。
 (A)次の理由により、(略)宣誓または宣言を提出できない個人

(i) 死亡している。
(ii) 法的無能力状態にある。 または
(iii) 十分に努力しても見つからない、または連絡がつかない。 または

 (B) 発明を譲渡する義務があるが(略)宣誓(略)を拒否した個人
(3) 内容
本項の代替陳述書には
 (A) 代替陳述書が適用される個人を特定し、
 (B) (略)代替陳述書の提出が許可される根拠を表す状況を説明し、そして
 (C) 米国特許庁長官が要求する追加情報 (説明を含む) を含める。

1.提出書類は?
USPTO標準の代替陳述書(フォームPOT/AIA/02)の次の 1 つにチェックして署名し提出するだけで足ります。

[  ] 発明者は亡くなっています
[  ] 発明者は法的無能力者である
[  ] 十分に努力しても発明者が見つからない、または連絡が取れない、または
[  ] 発明者は、37 CFR 1.63 に基づく宣誓または宣言の履行を拒否した。

他の証明書類は不要です。米国特許庁長官は追加の情報を求められますが(35 USC 115(c) )、これは極稀です。

2.「十分な努力」(115条(d)(2)(A)(iii))にはどれくらいの労力が必要か?
十分な努力を尽くした証拠は、2012年から提出不要になりました。「十分な努力」の判断基準は明記されていませんが発明者と連絡する手段としてはMPEP409.03(d)に「ネット検索、配達証明付きの郵便、カバーレター、電報」が挙げられています。

通常は、「十分な努力」を証明するには、宣誓書のコピーに発明者への説明を添え、署名して返送するための妥当な期間(例:4週間)を指定して、最後に分かっている発明者の自宅住所に郵送するだけで十分です。この期間に宣誓書が返送されない場合、十分な努力が行われたが発明者に連絡を取ることができなかった合理的に推測されます。

ただし郵便の配達証明を取得・保管することをお勧めいたします。また例えば、発明者が4週間以上の期間を要めた場合は、追加の時間を提供することが合理的です。

3.発明者が「宣誓を拒否」(115条(d)(2)(B))した証拠の保管
退職した発明者とのやり取りはすべて書面(電子メール)で行うことをお勧めします。特に、退職した発明者が署名を拒否する旨の連絡を書面で受領することをお勧め致します。

また状況の事実を記録し、出願書類とともに会社のファイルに保管することをお勧め致します。たとえば、退職した発明者にメール送信した日付、送信した書類(明細書、図面、宣言書など)のコピー、リマインダーを送信した日、その他の関連する日付、退職した発明者の最後にわかっている住所を、いつどのようにして入手したかを示す情報を記録し保管しておくことをお勧め致します。

以上