【判例シリーズ】知財高判R4.7.20「表示装置、コメント表示方法、及びプログラム」事件

2024.05.17

前回の動画では「属地主義」と「準拠法の決定」をメインテーマとした判例(最判H14.9.26「カードリーダー事件」)を扱いましたが、
今回は、「国外サーバから日本のユーザに向けてのプログラム配信(本件配信)に日本国の特許権の効力を及ぼしても、属地主義に反しないか?」をメインテーマとする知財高判R4.7.20「表示装置等事件」について解説しています。

本判例は、原告ドワンゴの特許権(特許第4734471号(※1)、及び特許第4695583号(※2))に基づく侵害訴訟(被告:FC2及びHPS)です。
先ず第1審(東京地判H30.9.19)では、「被告ら各装置及び被告ら各プログラムは,文言上,本件各発明の技術的範囲に属さず,かつ,本件発明2と均等なものとしてその技術的範囲に属するということもできない。したがって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないため,これらを棄却する。」と判示されました。

これに対し、第2審(知財高判 R4.7.20)では、「被控訴人ら各装置は、いずれも本件発明1-1、1-2、1-5及び1-6の技術的範囲に属し、被控訴人ら各プログラムは、いずれも本件発明1-9及び1-10の技術的範囲に属する。」としました。
そして、「本件配信は、日本国の領域内に所在するユーザが被控訴人ら各サービスに係るウェブサイトにアクセスすることにより開始され、完結されるものであって、①本件配信につき日本国の領域外で行われる部分と日本国の領域内で行われる部分とを明確かつ容易に区別することは困難であるし、②本件配信の制御は、日本国の領域内に所在するユーザによって行われるものであり、また、③本件配信は、動画の視聴を欲する日本国の領域内に所在するユーザに向けられたものである。さらに、④本件配信によって初めて、日本国の領域内に所在するユーザは、コメントを付すなどした本件発明1-9及び10に係る動画を視聴することができるのであって、本件配信により得られる本件発明1-9及び10の効果は、日本国の領域内において発現している。これらの事情に照らすと、本件配信は、その一部に日本国の領域外で行われる部分があるとしても、これを実質的かつ全体的に考察すれば、日本国の領域内で行われたものと評価するのが相当である。以上によれば、本件配信は、日本国特許法2条3項1号にいう「提供」に該当する。」として、特許権の侵害を認定しました。
理由は、「ネットワークを通じて送信され得る発明につき特許権侵害が成立するために、問題となる提供行為が形式的にも全て日本国の領域内で完結することが必要であるとすると、~サーバ等の一部の設備を国外に移転するなどして容易に特許権侵害の責任を免れることとなってしまうところ、数多くの有用なネットワーク関連発明が存在する現代のデジタル社会において、かかる潜脱的な行為を許容することは著しく正義に反するというべき」だからです。

※1(特許4734471)…「表示装置、コメント表示方法、及びプログラム」の分割出願(特願2010-267283)に係る特許権
※2(特許4695583)…「表示装置、コメント表示方法、及びプログラム」の原出願(特願2006-333851)に係る特許権

引用出典知財高判R4.7.20「表示装置等(ドワンゴvsFC2ら)事件」
平成30年(ネ)第10077号 特許権侵害差止等請求控訴事件 (原審・東京地方裁判所平成28年(ワ)第38565号)

板書知財高判R4.7.20「表示装置等事件」(ドワンゴvsFC2ら)


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